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Sword Breaker ~黒と空の物語~

その瞳は天頂の空の色だと君は言った

プロフィール

無為(MUI)

Author:無為(MUI)
辺境の地へようこそ。無為(MUI)と申します。
想像の翼で世界を創造・構築することは本当に大変で、同時にとても楽しいプロセスでもあります。
読む人を最果てへ誘う物語を描けたら良いな、と思っています。まだ書き始めたばかりですが、お茶でも飲みながらお楽しみくださいませ。

※無断転載禁止。ご注意下さい※

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■■■第一話 冒険者始めました

 
 
「ジュード。お前、童貞だろ」

 えらく朗らかな声が、満席の店内に響き渡った。

 その質問だか確認だか分からない台詞は俺に向けられたもので、事実俺は童貞で、それは別に隠すことでも、恥ずかしいことでもない。
なんたってパーティ最年少、成人したのは二ヶ月前、冒険者登録はその半月ちょい後。法律上は大人でも、十五歳なんてまだガキだ、見た目も中身も。

 ──だからって──。
   
* * *
     
 話は、二時間前に遡る。

 王都ザエッダ、南門大路──通称南通り──に面した冒険者の宿〈兎の尻尾亭〉は、大層賑わっていた。と言うか、呆れるほどに騒々しかった。

 宿屋ってのは金を払って寝る場所だ。安眠できそうにない宿に好き好んで泊まる奴はいない。どこでだって眠れる冒険者でもそれは同じだ。
だけど、ここは客室じゃないので、それに文句を言う奴はいないし、俺だって言わないし、思わない。普通なら。

 ここは一階、宿泊受付兼・食堂兼・酒場。部屋は二階と三階にある。
これは、冒険者の宿も一般の宿も変わらない。宿屋ってのは、基本こんな形に出来ている。
で、その一階窓際席で、俺たち六人は飯を食ってる。──長方形のテーブル──の向かいに三人、こっちに三人。

 繁盛してる宿屋、旨い食事、しかも夕食時なら酒だって入る。その上満席とくれば、賑やかなのは当たり前。一般の宿屋でだって見られる、普通の光景だ。

(だけどこれは、フツーじゃねぇ)
「別に、普通だろ」
「普通だな」 
「僕は、もう少し静かな方がいいけどね」 
「…………」
「まぁ、仕方ないんじゃない。ジェードは、初心者だし」
「マティルダさん、俺の名前は、ジェードじゃなくて、ジュードですっ」

 俺は、結構な大声を出した。別に間違えられて怒ったとかじゃない。必死になって聞き取らないと、同じテーブルの先輩五人が何を話してるのか、全然分からない。それくらい煩い中で喋ろうとすると、自然と大声になってしまうのだ。

「あたし、ちゃんとジュードって言ったわよぉ」
 
 真向かいに座ってるマティルダの緑色の瞳が、笑っている。口元は見えない。と言うか、顔の上半分しか視界に入らない。
何故なら、俺と彼女の間には、うず高く積まれた皿の山があるからだ。 
しかも、皿の大きさはバラバラ。中心を揃えてある訳でもない。どう見ても崩壊寸前だ。

 だが、ここまで空皿を盛り上げたのは、マティルダじゃない。最初に〝普通〟発言をした、アルフジールだ。
彼は、盾持ち片手剣の重戦士ウォーリアで、この六人パーティの実質的なリーダーでもある。
栗色の髪を短く刈り込んだ、この爽やかイケメンは、戦闘時以外は笑顔を絶やさない。今も、マティルダの隣で鎧戸から漏れる街の灯りを眺めながら、呑気に歌っている。

「いい月夜だねぇ。どうよ、俺の絶妙なバランス感覚」
「俺なら、あと二十枚は積める。積まないけどな」

 興味なさげに口を開いたのは、デニスだ。アルフジールの隣でちびちび食後酒デザートワインを飲んでいる。メインスキルは盗賊シーフ
最も本人は、『迷宮探索者トゥームレイダーと呼んでくれ』って、言ってたけど。

 俺は改めて、ホールを見渡した。ざっと数えて四十人。普通の飲食店なら七十席くらいあってもおかしくない程広いのに、その六割弱で満席。つまり、テーブル間の距離がずいぶんと離れている訳だ。

 これは、フル・プレートの巨漢がすれ違っても、鎧だの剣だのがぶつかったりしない為だし、やたらと高い天井は、クソ長い得物──ポール・ウェポンとか──をうっかり持ち上げたりした時、天井に傷をつけられたくない、宿屋側の用心だ。そういう冒険者仕様は、一般の店や宿にはないから、これが普通の光景かといえば、違う。

 普通に喋ったくらいじゃ、会話が成立しない程、クソやかましいこの冒険者の宿、<兎の尻尾亭>、──そう、尻尾だ。
それなのに、壁に大量にぶら下げてあるのは、後ろ足。ウサギの足は幸運のお守りとして有名だけど、これだけあると、壮観を通り越して不気味だ。壁面が見えないどころか、重なり合って盛り上がって、迫ってくるんだよ。

 俺ん家は代々、狩人だ。ウサギの足なんて見慣れてる。足どころか、解体だってやるから、ちょん切られたウサギの頭を不意に目の前に出されたって、驚いたりしない。その俺が、ここは邪教神殿かよっ!て、叫びたくなるくらい気持ち悪い。

 そんな呪われた空間で、食って飲んで歌って喋って、酔っ払ってる、四十人の冒険者たち。しかも酔い方が、ヤバい薬でもキメてるんじゃないかってくらい狂ってる。その上、四百人はいるんじゃないかってくらいに、騒がしい、やかましい。あー、耳塞ぎたい。でも、それやったら、両手塞がるから、飯が食えない。

 大層な成果を上げたのか、上機嫌で乾杯を繰り返す奴らがぶつけ合う、ジョッキの打撃音がホールに響き渡る。
いくら頑丈な木樽ジョッキでも、そろそろフープタガが外れるんじゃないかと、他人事ながら心配になる。
いや、俺は基本的に自分の心配しかしないんだけど。
奴らがエールシャワーなんか浴びたら、それこそタガが外れそうだ。主におつむの。

 視界の端には、テーブルに地図を広げて仕事の段取りを話し合いつつ食事を取る、いかにもベテランっぽいパーティ。
そして俺の背後には、凄まじい勢いで飯をかっ食らいながら、喋りまくる一団がいる。

(……食うか喋るか、どっちかにしてほしい)
 
 別にお上品に食べる必要はないけれど、だからって、口一杯に食い物を詰め込みながら話すのはどうかと思う。こぼれてるし。
それにあのテーブル、どう見ても四人掛けだろ。そこに七人とか。
その上、床が凄いことになっている。山育ちで小村出身の俺でも、最低限の作法くらいは心得てるっていうのに。

(駆け出しにマナーうんぬん言われたくないだろうけど、ちょっとアレは無いよなぁ)

 俺だって新米とはいえ、きちんと登録を済ませた冒険者だ。適性検査も受けたし、試験にも通った。ビギナークラスだけど。
弓手アーチャー15級、杜守レンジャー15級、斥候スカウト15級、賢者セージ15級だ。

 もっとも、アーチャーとレンジャー、それにスカウト。この三つは、俺が幼いころから狩人ハンターとしてビシビシ鍛えてくれた親父のおかげだし、セージは、母さんが薬草学の知識を持っていたからだ。
試験官の人も『恵まれてるな』って言ってたし、両親には感謝してもしきれない。

(……あれ?)

 ふと、気づいた。俺たちのテーブルは、静かだ。いや、周りはスゲェ煩い。でも、俺の仲間たちは、普段通りの声量で喋ってる。だから、必死になって集中しないと聞こえないんだけど。
そして、このフツーじゃない混沌空間を、〝普通〟だと受け流し、平然と食事を楽しみ、和やかに談笑してる先輩方もやっぱり、普通じゃない。

「そっか。フツーじゃない場所ではフツーじゃない出来事が起きるんだ……」

 ぼそりと呟いて、テーブルに視線を戻すと、先輩方四人──ひとりはふて腐れて、倒れ伏している──は、揃って俺を眺めていた。 

「……、うるさい」

 隣席に突っ伏していたイーヴォが、むくりと起き上がった。

「ジーン、アレ・・かけて」
「いいよ」

 ジーンは、ちらりとアルフジールの方を見やって、やおら詠唱を始める。

「ちょっ! 待て、待て。沈黙ステルエとか、やめてくれ。俺の魔法抵抗値の低さ知ってるだろう」
「最後に測ったの二年くらい前だよね。大丈夫、ちょっとは上がってるでしょ」
「根性で耐えなよレジスト
「気合とか根性で、魔抵抗上がるなら苦労しねぇって」

 イーヴォが不機嫌なのには、理由がある。魔術士ウィッカの昇級試験に落ちたのだ。とは言っても、クラス10だ。彼が11級に上がったのが、わずか三ヶ月前。彼の師匠も相当に厳しいんだろうが、ちょっと無理があったんじゃなかろうか。

 と言うのも、大陸標準語に訳すと単なる数字になってしまうけど、クラス10って言ったら帝級魔法が使えるんだよ? 彼のお師さんは――大賢者級――クラス7なんだから、四十も年上の師匠に、二十二歳にして、追いつき追い越そうとしてるって事だ。凄いと思うし、尊敬してる。や、日ごろの態度は子供っぽいんだけどね。

「……寝る……」

 イーヴォはふらふらと立ち上がって、二階に上がって行った。足元がおぼつかない。後姿を見送っていたジーンが、ほぅ…と軽くため息をつく。

『気落ちするのも仕方ないよ。魔術士ウィッカクラス10に昇級すれば、魔術師ウィザードの称号が得られるから。彼、楽しみにしてたんだよ』

 ジーン? 彼の席は俺の隣ではあるけれど、耳打ちされた訳でもないのに、何でこんなに、ハッキリと聞こえるんだろう。

風の囁きウィスペ・ルベン?」
『そう。効果範囲を君の耳の奥、鼓膜あたりまで絞ったからね。大分聞きやすいでしょ』

 ウィスペ・ルベンは精霊魔法だ。
ジーンはエルフだから生粋の精霊使いシャーマン、そしてそして優れた弓手アーチャーでもある。称号もいくつか持ってるんだけど……あれ、何だっけ。とにかく、冒険歴六十四年は伊達じゃない。流石、エルフ。

「何だなんだ。お前ら、内緒話してるのか」
「別に。あと二十分で、ラストオーダーだねって話してただけだよ」
「おっと、そうだったな。危ない、忘れるところだった」 

 アルフジールは、急に張り切りだした。嫌な予感しかしない。

「なあ、ジュード」
「はい、アルフジールさん」
「俺のことは、アルフでいいって言ってるだろう」
「はい、アルフさん」
「ジュード。お前、童貞・・だろ」

 あれだけザワついていたはずの店内が、アルフジールがその台詞を発した瞬間・・だけ、静まり返った。

「……こういうの確か、『逢う魔が時』って言うんでしたよね」
「んー、この場合、『精霊が通った』かな。妖精でもいいけど」

 俺の恨めしげな抗議の台詞は、ジーンにさらりと訂正された。

「アルフ、今の超絶妙タイミング。もしかして狙ったの?」

 俺の心の声を半分くらい代弁したマティルダが、テーブルに積み上げた皿の下から、無造作にメニューを引き抜く。皿の山はピクリとも動かなかった。

「そんな訳あるか。てか、お前、まだ食うのかよ」

 アルフジールの言う通り、この最悪なタイミングは謀ったんじゃない。たまたまだ、偶然だ。だけどさ、あんな偶然フツーないだろ。

「食べるわよ。お仕事、頑張ったんだから。それに前衛はお腹空くの。アルフもデニスも近接職なんだから、分かるでしょ。それともお二人はサボってたのかしら。給仕呼ぶより、こっちから行った方が早いわね」

 マティルダは、左右の男二人を軽く小突いてから立ち上がり、自分の椅子の背を跨いで、カウンターに向かってえらく大股で、歩いて行った。

「肉食獣はせっかちだよな。言ってくれれば、退くのに」

 通路側に座っているデニスはそう言って、こっちを見た。何だろう、俺に感想とか同意求められても、困るんだけど。

「いや、デニス」

 アルフジールが口を開いた。

「椅子を跨ぐなんて、はしたない真似をせずに、デニスを跨ぐのが最善だった。最短距離だしな」

 え……。どっちもはしたない上に、デニスに失礼じゃないの? それ、どういう理屈なんだよ。
表情から察しようとしても、冗談なのか本気なのか、全く分からない。俺、駆け出しだし、パーティ入れてもらって、二十日目だし。

 言われたデニスは、かったるそうな声で、空のグラスを振りつつ、わらった。

「アルフさぁ、察し悪いよな、相変わらず。胃袋を満たしたマティルダは、今から、別のモノを満たしに行くんだぜ。好みの獲物を、跨いで羽交い絞めにして喰っちゃおうーってワクワクしてるときに、俺なんか跨ぐ訳ないだろ」
「だからって抜け駆けする必要があるのか。好みが被る訳でもないのに。で、ジュード」
「ハイ」
「お前、童貞だろ」

 だ・か・ら。そうハキハキ言わないでくれないかな。

「娼館、連れて行ってやる。心配すんな、成人祝いだ」

 気がつくと、左右は先輩二人によってガッチリ固められていた。おい、強制連行だろ、これ。

「そうそう、僕たちの奢りだよ」

 にっこりと微笑むジーンには、全く隙がない。唯一の味方だと思ってたのに。
 デニスもぶつぶつ言いながらも、ちゃんとついて来る。イーヴォ、もしかして──分かってて──逃げたのか。

「それにしても、戦神アジーダ、怖いよな」
「アジーダ関係関係ないと思うぜ。マティルダだろ、おっかないのは」

 燃え上がる様なフランベルジェを振りかざし、敵の真っただ中に飛び込んでいく赤毛の神官戦士ハイ・プリースト。それが彼女──マティルダ・インニェイェルド・カロリーネ・トルスティンだ。

「二人とも、 彼女 マティルダを畏怖の対象としてしか見てないよね。神話の時代から、女性は畏敬の念を抱くに値する存在だよ。ね、ジュード」
(いや、先輩たち、みんな恐いから!)

 宿屋から娼館への道すがら、俺は遠い目をして、|真円《まる》い月を見上げた。

(俺、なんでこんなぶっ飛んだハイレベルのパーティに入っちゃったんだろ……)


 そう、このときは、見えていなかったんだ、まだ何も。

 ひとつの出会いが、その後の全てを変えてしまうことを。

 この世界の理不尽どころか、冒険者の生き方さえ、理解出来てはいなかった。

 それくらい、ひよっ子でペーペーで、無知で行き当たりばったりなガキにしか過ぎなかったんだ、俺は。
 
 
 

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